TBSが水戸黄門に反対したのは

水戸黄門(時代劇)だったからが理由」。これには色々理由があって。 元々、逸見稔氏はナショナル劇場開始時から番組制作に関わり、TBSだけでも 「てんてん娘」、「青年の樹」、「七人の孫」とヒット番組を制作した実績を残していました。 そこで1966年に超目玉番組として、「打倒!NHK大河ドラマ」を目指して民放初の1話1000万円を かけて超豪華キャストを集合させた「戦国太平記 真田幸村」をプロデュース。 しかし、逸見氏としては娯楽時代劇としてプロデュースしたものの、TBS側のディレクター だった大山勝美氏は「NHK大河に負けない初の作品」というプレッシャーと気合が空回りして、 逸見氏の狙いとは違って出来上がった作品は暗いシリアスな作風となりました。 大山氏と衝突した脚本家の松山善三氏が途中降板するトラブル等もあり、番組も盛り上がらず 莫大な予算をかけたのに視聴率は20%に届かず、嫌気がさした逸見氏はTBSナショ劇の製作から一時離れる事態になりました。大山氏は暫くTBSで干される大失敗。 ところが逸見氏が制作から離れてみるとヒット番組を連発していたナショ劇からヒット作品が出なくなり、苦戦を強いられる事。一方、NET(現テレ朝)の ナショナルゴールデン劇場は逸見氏が制作したフルーツシリーズ等がヒットを飛ばしていました。 この状況についにたまりかねたTBS側が音を上げて当時TBS編成部長だった磯崎洋三氏(後のTBS社長)が逸見氏に自由に番組を作らせる事を条件に、TBSのドラマ制作の現場に戻る事を要請。『ドカンと一発』という26回予定だったドラマが低視聴率で13回で打ち切りとなるので、 残り13回を何とかしてくれというのがTBSからの要請。こうして復帰した、逸見氏が3年ぶりにTBSで制作した「SHは恋のイニシヤル」というラブコメが初回16%、最高24%、平均18%と久々のヒットを記録。当然TBSサイドはようやくこれで低迷を脱出できる、今後もナショ劇はコメディ路線で行こうと考えていた所で、逸見氏が提示して来た企画は何故かコメディではなくて戦前から題材があり、これまで何度も映画でもTVでも企画され、数年前にもTBSで月形龍之介主演で 放送されていた使い古された「水戸黄門」。

当然TBSは「せっかく青春ドラマが久々に当たったのに何で今頃水戸黄門!?」と大反対しますが、磯崎氏から復帰を要請されて「SH」をヒットさせて、尚且つスポンサーだった逸見氏に押し切られて「ただの水戸黄門じゃない、森繁さんをナショ劇に戻して七人の孫の時代劇版を作る」という意図で「黄門」制作が決定。

ただし、東京でTBSのディレクターに撮らせて大失敗した「戦国太平記」の教訓を生かし、TBSの目の届かない京都に撮影所がある上に、時代劇製作のノウハウを最も持っていた東映黄門を撮る事を決めて、東映社長の岡田茂氏に打診。これで京都での制作ルートが出来ました。

こうしてTBS放送のドラマながら、制作にCAL、制作協力に東映とクレジットされてOPに「TBS」のクレジットがない前代未聞の作品がスタート。

途中、五社協定の名残で東宝専属だった森繁さんの起用断念等のトラブルもありましたが、放送開始してみると最終回は20%超の大ヒット。こうしていよいよTBSと逸見氏の主導権争いは決着。

元TBS編成企画部:田原茂行氏曰く

『黄門』は、松下の担当者と電通が幸之助の好みを意識してもちこんだとみられる問答無用の企画であったが、この番組の成功は、やがてこの時間枠の企画決定の主導権争いに終止符をうつウルトラCとなり、われわれの入れない領域が生まれる結果になった』

結果的に、赤坂でTBSが撮った「真田幸村」の大失敗と、その後の逸見氏が製作を離れたナショ劇の苦戦、その後の復帰要請での「SH」のヒット。こういう背景があって、制作にTBSを噛ませず東映京都で撮る事になった水戸黄門が大ヒット番組となりました。
逸見氏は水戸黄門のヒット以降、東映京都撮影所を非常に信頼していて、赤字が続いた東映京都制作所を解散することになり、水戸黄門も東京で制作しようという話がありましたが、岡田茂氏の所に逸見氏が訪れて、「どうしても京都でやりたい。もう一度新しい会社を立ち上げてくれ」と頼みこんだ程。こうして1976年に組織をスリム化して新しく作った東映太秦映像という会社ができて、『水戸』の制作は京都で続けられた。逸見氏と岡田氏は交友関係が続き、息子の岡田祐介氏(現東映会長)はオフィスヘンミ設立時に取締役に就任して、葉村彰子のメンバーの一員にもなりました
 
大山氏は晩年民放(特にキー局)における過剰なまでの視聴率至上主義について批判しており、テレビ局の上層部について「民放といえども公器(電波)を借りて活動している社会的影響力の強い公共的企業だという原点に立ち返るべきである」と述べています。